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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

07 第七分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,903 字 · 400 页

青空文庫

なるほど、泥湖の流木のうえに、たくさんな鷺が止まって遊んでいた。

石田佐吉、大谷平馬、一柳市助の弟など、まだ十三、四歳から十六、七歳の小粒組は、首をすくめて、くすくすと笑った。

「わしたちは、鷺かしら?」

すると、中で年上の、森勘八郎がいった。

「戦いの中でも、よく遊んでばかりおるゆえ、殿さまがああ仰っしゃったのだ」

小粒組は、負けていない。

「じゃあ、勘八どのは、なんだろう」

「鴉々。鴉の勘八どのだ」

そんな、子どもらの戯れをうしろ耳にしながら、秀吉はのたりのたり馬を打たせて帰って行く。

いつものように、傘、馬印、以下五十騎ほど連れて陣廻りをして来たもどりである。

それは、六月三日の夕方。

彼はまだ何も知ろうはずはない。

秀吉は日々の陣廻りを欠かさなかった。ほとんど日課としていた。

五十騎、或いは百騎を従え、ときには子ども(小姓)も連れ、長柄の大傘を翳させ、燦々と、馬印を立てて練り歩く彼の「御通過」を仰ぐと、味方の兵は、

――うちのおやじが通る。

そう思った。見かけない日は何となく物足らなかった。

秀吉もまた、右顧左眄。

――やっているな。

汗や泥にまみれている兵、食うにたえない程な物を美味そうに喰べている兵、常にどこか笑いをもって退屈を知らない兵。