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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
09 一九四二年(昭和十七年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,952 字 · 130 页
気がついてみたら、そちらからのお手紙はもう三四通前からすっかり自分で読んでいるわ。ですからどうぞどうぞ面白い手紙を下さい。この字は不思議と読めるただ一つの字なのだから。子供の時あなたも「面白いお話しを聞かせてよ」とおっしゃったでしょう。そういう人はいつもきまっていたでしょう。子供だって、きらいなやつに面白いお話しをせがむような鈍感な間違いはしないわ。
寿江子が昨日電話を寄越してあちらは終日雪だそうです。東京は街の黄色い葉を落して強い雨降りでしたが。佐藤先生のところへ手紙を寄越して、色々気持の病的なところを訴えてきたそうです。体はみたところ肥って、陽に焼けてしっかりしたようだそうだけれど、神経がどうこう、気持がどうこうというわけで、そちらの方が難物です。私も気にしているけれど、お医者様への手紙には「うちのものには絶対に言ってくれるな」と念をおしているそうだし、一寸手の下しようがありません。年齢的にもむずかしいのだろうし、何か感情の上へショックを受けたことがあるのではないか、という気もします。率直なようだが、事実は決してそうでないから、苦悩の原因が誰れにもわからない。