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ちじんのあい
痴人の愛
谷崎 潤一郎
「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页
とか、「何処そこの刺身を取って見よう」とか、生意気なことを云います。
午は私は会社に居ますから、ナオミ一人でたべるのですが、却ってそう云う折の方がその贅沢は激しいのでした。夕方、会社から帰って来ると、台所の隅に仕出し屋のおかもちや、洋食屋の容物などが置いてあるのを、私はしばしば見ることがありました。
「ナオミちゃん、お前又何か取ったんだね! お前のようにてんや物ばかり喰べていた日にゃお金が懸って仕様がないよ。第一女一人でもってそんな真似をするなんて、少しは勿体ないと云う事を考えて御覧」
そう云われてもナオミは一向平気なもので、
「だって、一人だからあたし取ったんだわ、おかず拵えるのが面倒なんだもの」
と、わざとふてくされて、ソオファの上にふん反り返っているのです。
この調子だからたまったものではありません。おかずだけならまだしもですが、時には御飯を炊くのさえ億劫がって、飯まで仕出し屋から運ばせると云う始末でした。で、月末になると、鳥屋、牛肉屋、日本料理屋、西洋料理屋、鮨屋、鰻屋、菓子屋、果物屋と、方々から持って来る請求書の締め高が、よくもこんなに喰べられたものだと、驚くほど多額に上ったのです。