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ちじんのあい

痴人の愛

谷崎 潤一郎

「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页

青空文庫

と云いながら、暫く躊躇していると、

「まあ、大変なお天気だ、これじゃあとても帰れないから、今夜は泊っていらっしゃいよ」

と、ナオミがふいとそう云いました。

「ねえ、いいじゃないの、泊ったって。―――まアちゃんは無論いいんだろう?」

「うん、己アどうでもいいんだけれど、………浜田が帰るなら己も帰ろう」

「浜さんだって構やしないわよ、ねえ、浜さん」

そう云ってナオミは私の顔色を窺って、

「いいのよ、浜さん、ちっとも遠慮することはないのよ、冬だと布団が足りないけれど、今なら四人ぐらいどうにかなるわ。それに明日は日曜だから、譲治さんも内にいるし、いくら寝坊してもいいことよ」

「どうです、泊って行きませんか、全くこの雨じゃ大変だから」

と、私も仕方なしに勧めました。

「ね、そうなさいよ、そして明日は又何かして遊ぼうじゃないの、そう、そう、夕方から花月園へ行ってもいいわ」

結局二人は泊ることになりましたが、

「ところで蚊帳はどうしようね」

と、私が云うと、

「蚊帳は一つしかないんだから、みんな一緒に寝ればいいわよ。その方が面白いじゃないの」

と、そんな事がひどくナオミには珍しいのか、修学旅行にでも行ったように、きゃっきゃっと喜びながら云うのでした。