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ちじんのあい
痴人の愛
谷崎 潤一郎
「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页
「ああ、まあそうだな」
「じゃ、まアちゃんは?」
「己ア平気さ、お前なんか女の数に入れちゃあいねえさ」
「女でなけりゃ何なのよ?」
「うむ、まあお前は海豹だな」
「あはははは、海豹と猿と孰方がいい?」
「孰方も己あ御免だよ」
と、熊谷はわざと眠そうな声を出しました。私は熊谷の左側に寝ころびながら、三人がしきりにべちゃくちゃ云うのを黙って聞いていましたが、ナオミが此処へ這入って来ると、浜田の方か、私の方か、いずれ孰方かへ頭を向けなければならないのだが、と、内々それを気にしていました。と云うのは、ナオミの枕が孰方つかずに、曖昧な位置に放り出してあったからです。何でもさっき布団を敷く時に、彼女はわざとそう云う風に、あとでどうでもなるように置いたのじゃないかと思われました。と、ナオミは桃色の縮みのガウンに着換えてしまうと、やがて這入って来て衝っ立ちながら、
「電気を消す?」
と、そう云いました。
「ああ、消して貰いてえ、………」
そう云う熊谷の声がしました。
「じゃあ消すわよ。………」
「あ、痛え!」
と、熊谷が云ったとたんに、いきなりナオミはその胸に飛び上って、男の体を蹈み台にして、蚊帳の中からパチリとスイッチを切りました。