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ちじんのあい

痴人の愛

谷崎 潤一郎

「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页

青空文庫

「そんな頭は孰方へ向けたって、格別問題になりやしねえよ」

「いや、そうでないよ、まアちゃんはまん中だからいいが、僕に取っちゃ問題だよ」

「そう? 浜さん、じゃ、浜さんの方を頭にしようか」

「だからそいつが問題なんだよ、此方へ頭を向けられても心配だし、そうかと云って河合さんの方へ向けられても、やっぱり何だか気が揉めるし、………」

「それに、この女は寝像が悪いぜ」

と、熊谷が又口を挟んで、

「用心しないと、足を向けられた方の奴は夜中に蹴ッ飛ばされるかも知れんぜ」

「どうですか河合さん、ほんとに寝像が悪いですか」

「ええ、悪いですよ、それも一と通りじゃありませんよ」

「おい、浜田」

「ええ?」

「寝惚けて足の裏を舐めたってね」

そう云って熊谷がゲラゲラ笑いました。

「足を舐めたっていいじゃないの。譲治さんなんか始終だわよ、顔より足の方が可愛いくらいだって云うんだもの」

「そいつあ一種の拝物教だね」

「だってそうなのよ、ねえ、譲治さん、そうじゃなかった? あなたは実は足の方が好きなんだわね?」

それからナオミは、「公平にしなけりゃ悪い」と云って、私の方へ足を向けたり、浜田の方へ向け変えたり、五分おきぐらいに、何度も何度も布団の上を彼方此方へ寝そべりました。