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ちじんのあい
痴人の愛
谷崎 潤一郎
「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页
「おい、どうするいまアちゃん―――もう一遍泳いで来ようか?」
「やあだア、己あ、くたびれたからもう帰ろうや。これから行って一と休みして、東京へ帰ると日が暮れるぜ」
「これから行くって、何処へ行くのよ?」
と、ナオミは浜田に尋ねました。
「何か面白い事でもあるの?」
「なあに、扇ヶ谷に関の叔父さんの別荘があるんだよ。今日はみんなでそこへ引っ張って来られたんで、御馳走するって云うんだけれど、窮屈だから飯を喰わずに逃げ出そうと思っているのさ」
「そう? そんなに窮屈なの?」
「窮屈も窮屈も、女中が出て来て三つ指を衝きやがるんで、ガッカリよ。あれじゃ御馳走になったって飯が喉へ通りゃしねえや。―――なあ、浜田、もう帰ろうや、帰って東京で何か喰おうや」
そう云いながら、熊谷は直ぐに立とうとはしないで、脚を伸ばしてどっかり浜へ腰を据えたまま、砂を掴んで膝の上へ打っかけていました。
「ではどうです、僕等と一緒に晩飯をたべませんか。折角来たもんだから、―――」
ナオミも浜田も熊谷も、一としきり黙り込んでしまったので、私はどうもそう云わなければ、バツが悪いような気がしました。
十五
その晩は久しぶりで賑やかな晩飯をたべました。