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ちじんのあい
痴人の愛
谷崎 潤一郎
「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页
「うふふふ、お止しよそんな下司張った声を出すのは!」
「………四名の悪漢を引率いたして、由比ヶ浜の海岸から………」
「お止しよまアちゃん! 止さないかったら!」
ぴしゃッとナオミが、平手で熊谷の頬ッぺたを打ちました。
「あ痛え、………下司張った声は己の地声さ、己あ浪花節語りにならなかったのが、天下の恨事だ」
「だけれどメリー・ピクフォードは女団長にゃならないぜ」
「それじゃ誰だい? プリシラ・ディーンかい?」
「うんそうだ、プリシラ・ディーンだ」
「ラ、ラ、ラ、ラ」
と浜田が再びダンス・ミュージックを唄いながら、踊り出した時でした。私は彼がステップを蹈んで、ふいと後向きになりそうにしたので、素早く木蔭へ隠れましたが、同時に浜田の「おや」と云う声がしました。
「誰?―――河合さんじゃありませんか?」
みんな俄かに、しーんと黙って、立ち止まったまま、闇を透かして私の方を振り返りました。「しまった」と思ったが、もう駄目でした。
「パパさん? パパさんじゃないの? 何しているのよそんな所で? みんなの仲間へお這入んなさいよ」
ナオミはいきなりツカツカと私の前へやって来て、ぱっとマントを開くや否や、腕を伸ばして私の肩へ載せました。