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ちじんのあい
痴人の愛
谷崎 潤一郎
「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页
植惣のかみさんの話に依ると、彼女が始めて下検分に来た折には、熊谷の「若様」と一緒にやって来て、あたかも「若様」の一家の人であるかのように振舞っていたばかりでなく、前からそう云う触れ込みだったものだから、よんどころなく先のお客を断って、部屋を此方へ明け渡したのだと云うことでした。
「おかみさん、まことに飛んだ係り合いで御迷惑をかけて済みませんが、どうかおかみさんの知っていらっしゃるだけの事を私に話してくれませんか。どんな場合でもあなたの名前を出すようなことはしませんから。私は決してこの事に就いて、熊谷の方へ談じ込む気はないんです。事実を知りたいだけなんです」
私は明くる日、今まで休んだことのない会社を休んでしまいました。そして厳重にナオミを監視して、「一歩も部屋から出てはならない」と堅く云いつけ、彼女の衣類、穿き物、財布を悉く纏めて母屋に運び、そこの一室でかみさんを訊問しました。
「じゃ何ですか、もうずっと前から、私の留守中二人は往き来していたんですか?」
「はあ、それは始終でございました。若様の方からお越しになりましたり、お嬢様の方からお出かけになりましたり、………」