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ちじんのあい

痴人の愛

谷崎 潤一郎

「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页

青空文庫

それらの写真は私以外の人間には絶対に見せるべきものではないので、自分で現像や焼き付けなどをしたのでしたが、大方水洗いが完全でなかったのでしょう。今ではポツポツそばかすのような斑点が出来、物によってはすっかり時代がついてしまって、まるで古めかしい画像のように朦朧としたものもありましたけれど、そのために却って懐かしさは増すばかりで、もう十年も二十年もの昔のこと、………幼い頃の遠い夢をでも辿るような気がするのでした。そしてそこには、彼女があの時分好んで装ったさまざまな衣裳やなりかたちが、奇抜なものも、軽快なものも、贅沢なものも、滑稽なものも、殆ど剰す所なく写されていました。或るページには天鵞絨の背広服を着て男装した写真がある。次をめくると薄いコットン・ボイルの布を身に纏って、彫像の如く彳立している姿がある。又その次にはきらきら光る繻子の羽織に繻子の着物、幅の狭い帯を胸高に締め、リボンの半襟を着けた様子が現れて来る。それから種々雑多な表情動作や活動女優の真似事の数々、―――メリー・ピクフォードの笑顔だの、グロリア・スワンソンの眸だの、ポーラ・ネグリの猛り立ったところだの、ビーブ・ダニエルの乙に気取ったところだの、憤然たるもの、嫣然たるもの、竦然たるもの、恍惚たるもの、見るに随って彼女の顔や体のこなしは一々変化し