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ちじんのあい

痴人の愛

谷崎 潤一郎

「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页

青空文庫

浜田の話を聞いているとあたかもビックリ箱のようで、「おやッ」と思うような事実がピョンピョン跳び出して来るのです。つまりナオミは、最初の晩は西洋人の所へ泊ったらしいのですが、その西洋人はウィリアム・マッカネルとか云う名前で、いつぞや私が始めてナオミとエルドラドオへダンスに行った時、紹介もなしに傍へ寄って来て、無理に彼女と一緒に踊った、あのずうずうしい、お白粉を塗った、にやけた男がそれだったのです。ところが更に驚くことには、―――これは熊谷の観察ですが、―――ナオミはあの晩泊りに行くまで、そのマッカネルと云う男とは何もそれほど懇意な仲ではなかったのだと云うのです。尤もナオミも、前から内々あの男に思し召しがあったらしい。何しろちょっと女好きのする顔だちで、すっきりとした、役者のような所があって、ダンス仲間で「色魔の西洋人」と云う噂があったばかりでなく、ナオミ自身も、「あの西洋人は横顔がいいわね、何処かジョン・バリに似てるじゃないの」―――ジョン・バリと云うのは亜米利加の俳優で、活動写真でお馴染のジョン・バリモーアのことなのです。―――と、そう云っていたくらいだから、確かにあれに眼を着けていたのだ。