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ちじんのあい
痴人の愛
谷崎 潤一郎
「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页
だったのか? 己には彼女の正体が今の今まで分らないで、愚かな夢を見ていたのか? ああ、成るほど浜田の云うように、己はどんなに恋しくっても、もうあの女はあきらめなければならないのだ。己は見事に耻を掻かされた、男の面へ泥を塗られた。………
「浜田君、くどいようでももう一度念を押しますが、今の話は残らず事実なんですね? 熊谷が証明するばかりでなく、君も証明するんですね?」
浜田は私の眼の中に涙が湧いて来たのを見て、気の毒そうに頷きながら、
「そう云われると僕はあなたのお心持をお察しして、云い辛くなって来るんですが、現に昨夜は僕もその場に居合わせたんだし、大体熊谷の云うことは本当だろうと思われるんです。まだこの外にもお話すればいろいろな事が出て来るので、成る程とお思いになるでしょうが、何卒そこまではお聞きにならずに、僕を信じて下さいませんか。僕が決して、面白半分に事実を誇張しているのではないと云うことを、―――」
「ああ、有難う、そこまで伺えばもういいんです、もうそれ以上聞く必要は………」
どうした加減か、こう云った拍子に私の言葉は喉に詰まって、急にパラパラ大粒の涙が落ちて来たので、「こりゃいけない」