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ちじんのあい

痴人の愛

谷崎 潤一郎

「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页

青空文庫

そしてその上へ、好きな衣裳の一つであった亀甲絣の大島を着て、紅と白との市松格子の伊達巻を巻いてぎゅうッと胴がくびれるくらい固く緊め上げ、今度は帯の番かと思うと、私の方を向き直って、そこにしゃがんで、足袋を穿き換えるのでした。

私は何より、彼女の素足を見せられるのが一番強い誘惑なので、成るべく其方を見ないようにはしましたけれど、それでもちょいちょい眼を向けないではいられませんでした。彼女も無論それを意識してやっているので、わざとその足を鰭のようにくねくねさせながら、時々探りを入れるように、私の眼つきにそっと注意を配りました。が、穿き換えてしまうと、脱ぎ捨てた着物をさっさと始末して、

「さよならア」

と云いながら、戸口の方へ風呂敷包みを引き摺って行きました。

「おい、鍵を置いて行かないか」

と、私はその時始めて声をかけました。

「あ、そうそう」

と彼女は云って、手提袋から鍵を出して、

「じゃ、此処へ置いて行くわよ。―――だけどもあたし、とても一遍じゃ荷物が運びきれないから、もう一度来るかも知れないわよ」

「来ないでもいい、己の方から浅草の家へ届けてやるから」

「浅草へ届けられちゃ困るわ、少し都合があるんだから。