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ちじんのあい
痴人の愛
谷崎 潤一郎
「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页
ナオミはそう云って、擽ぐったそうに私の顔を覗き込んで、
「だけど譲治さん、ほんとうにただの友達よ」
「ああ、勿論さ」
「イヤらしいことなんか、もうお互に考えないのよ」
「分っているとも。―――それでなけりゃ己も困るよ」
「ふん」
と云って、ナオミは例の鼻の先で笑いました。
こんな事があってから後、彼女はますます足繁く出入するようになりました。夕方会社から帰って来ると、
「譲治さん」
と、いきなり彼女が燕のように飛び込んで来て、
「今夜晩飯を御馳走しない? 友達ならばそのくらいの事はしてもいいでしょ」
と、西洋料理を奢らせて、たらふく喰べて帰ったり、そうかと思うと雨の降る晩に遅くやって来て、寝室の戸をトントンと叩いて、
「今晩は、もう寝ちまったの?―――寝ちまったらば起きないでもいいわ。あたし今夜は泊る積りでやって来たのよ」
と、勝手に隣りの部屋へ這入って、床を敷いて寝てしまったり、或る時などは朝起きて見ると、彼女がちゃんと泊り込んでいて、ぐうぐう眠っていたりすることもありました。そして彼女は二た言目には、「友達だから仕方がないわよ」と云うのでした。
私はその時分、彼女をつくづく天稟の淫婦であると感じたことがありましたが、それはどう云う点かと云うと、彼女はもともと多情な性質で、多くの男に肌を見せるのを屁とも思わない女でありながら、それだけ