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ちじんのあい
痴人の愛
谷崎 潤一郎
「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页
そう云って彼女は、着物で体を囲いながらピンと立って見て、
「ほら、ちゃんと着くわよ」
その時私の頭の中には、何かの写真で覚えのあるロダンの彫刻が浮かびました。
「譲治さん、あなたあたしの体が見たいの?」
「見たければ見せてくれるのかい?」
「そんな訳には行かないわよ、あなたとあたしは友達じゃないの。―――さ、着換えてしまうまでちょいと彼方へ行ってらっしゃい」
そして彼女は、私の背中へ叩きつけるようにぴしゃんとドーアを締めました。
こんな調子で、ナオミはいつも私の情慾を募らせるようにばかり仕向ける、そして際どい所までおびき寄せて置きながら、それから先へは厳重な関を設けて、一歩も這入らせないのです。私とナオミとの間にはガラスの壁が立っていて、どんなに接近したように見えても、実は到底踰えることの出来ない隔たりがある。ウッカリ手出しをしようものなら必ずその壁に突き当って、いくら懊れても彼女の肌には触れる訳に行かないのです。時にはナオミはヒョイとその壁を除けそうにするので、「おや、いいのかな」と思ったりしますが、近寄って行けば矢張元通り締まってしまいます。
「譲治さん、あなた好い児ね、一つ接吻して上げるわ」