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ちじんのあい

痴人の愛

谷崎 潤一郎

「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页

青空文庫

が、この「特別」な愛撫の手段は、却って私の神経を異常に刺戟する力はあっても、決して静めてはくれません。

「畜生! 今日も駄目だったか」

と、私はますます苛立って来ます。彼女がふいと風のように出て行ってしまうと、暫くの間は何事も手に著かず、自分で自分に腹を立てて、檻に入れられた猛獣の如く部屋の中をウロウロしながら、そこらじゅうの物を八つ中りに叩きつけたり、破いたりします。

私は実に、この気違いじみた、男のヒステリーとも云うべき発作に悩まされたものですが、彼女の来るのが毎日であるので、発作の方も極まって一日に一遍ずつは起るのでした。おまけに私のヒステリーは普通のそれと性質が違い、発作が止んでしまっても、後でケロリと気が軽くなりはしませんでした。寧ろ気分が落ち着いて来ると、今度は前よりも一層明瞭に、一層執拗に、ナオミの肉体の細々した部分がじーッと思い出されました。着換えをした時にちょいと着物の裾から洩れた足であるとか、息を吹っかけてくれた時につい二三寸傍まで寄って来た唇であるとか、そう云うものがそれらを実際に見せられた時より、却って後になって一と入まざまざと眼の前に浮かび、その唇や足の線を伝わって次第に空想をひろげて行くと、不思議や実際には見えなかった部分までも、あたかも種板を現像するようにだんだん見え出して、遂に