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ちじんのあい
痴人の愛
谷崎 潤一郎
「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页
だからお前を美しい女にするためなら、どんなものでも買ってやるよ。僕の月給をみんなお前に上げてもいいが」
「いいわ、そんなにしてくれないでも。そんな事よりか、あたし英語と音楽をもっとほんとに勉強するわ」
「ああ、勉強おし、勉強おし、もう直ぐピアノも買って上げるから。そうして西洋人の前へ出ても耻かしくないようなレディーにおなり、お前ならきっとなれるから」
―――この「西洋人の前へ出ても」とか、「西洋人のように」とか云う言葉を、私はたびたび使ったものです。彼女もそれを喜んだことは勿論で、
「どう? こうやるとあたしの顔は西洋人のように見えない?」
などと云いながら鏡の前でいろいろ表情をやって見せる。活動写真を見る時に彼女は余程女優の動作に注意を配っているらしく、ピクフォードはこう云う笑い方をするとか、ピナ・メニケリはこんな工合に眼を使うとか、ジェラルディン・ファーラーはいつも頭をこう云う風に束ねているとか、もうしまいには夢中になって、髪の毛までもバラバラに解かしてしまって、それをさまざまの形にしながら真似るのですが、瞬間的にそう云う女優の癖や感じを捉えることは、彼女は実に上手でした。