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ちじんのあい
痴人の愛
谷崎 潤一郎
「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页
女の児だって、成るほど今までは解剖的の頭がなくても済んでいた。が、これからの婦人はそうは行かない。まして「西洋人にも劣らないような」「立派な」女になろうとするものが、組織の才がなく、分析の能力がないと云うのでは心細い。
私は多少依怙地にもなって、前にはほんの三十分ほど浚ってやるだけだったのですが、それから後は一時間か一時間半以上、毎日必ず和文英訳と文典とを授けることにしたのでした。そしてその間は断じて遊び半分の気分を許さず、ぴしぴし叱り飛ばしました。ナオミの最も欠けているところは理解力でしたから、私はわざと意地悪く、細かいことを教えないでちょっとしたヒントを与えてやり、あとは自分で発明するように導きました。たとえば文法のパッシヴ・ヴォイスを習ったとすると、早速それの応用問題を彼女に示して、
「さ、これを英語に訳して御覧」
と、そう云います。
「今読んだところが分ってさえいりゃ、これがお前に出来ない筈はないんだよ」
と、そう云ったきり、彼女が答案を作るまでは黙って気長に構えています。その答案が違っていても決して何処が悪いとも云わないで、
「何だいお前、これじゃ分っていないんじゃないか、もう一度文法を読み直して御覧」