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ちじんのあい
痴人の愛
谷崎 潤一郎
「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页
やっぱり育ちの悪い者は争われない、千束町の娘にはカフエエの女給が相当なのだ、柄にない教育を授けたところで何にもならない。―――私はしみじみそう云うあきらめを抱くようになりました。が、同時に私は、一方に於いてあきらめながら、他の一方ではますます強く彼女の肉体に惹きつけられて行ったのでした。そうです、私は特に『肉体』と云います、なぜならそれは彼女の皮膚や、歯や、唇や、髪や、瞳や、その他あらゆる姿態の美しさであって、決してそこには精神的の何物もなかったのですから。つまり彼女は頭脳の方では私の期待を裏切りながら、肉体の方ではいよいよますます理想通りに、いやそれ以上に、美しさを増して行ったのです。「馬鹿な女」「仕様のない奴だ」と、思えば思うほど尚意地悪くその美しさに誘惑される。これは実に私に取って不幸な事でした。私は次第に彼女を「仕立ててやろう」と云う純な心持を忘れてしまって、寧ろあべこべにずるずる引き摺られるようになり、これではいけないと気が付いた時には、既に自分でもどうする事も出来なくなっていたのでした。
「世の中の事は総べて自分の思い通りに行くものではない。