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ちじんのあい

痴人の愛

谷崎 潤一郎

「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页

青空文庫

、ハイカラな意見を持っていました。「結婚」と云うと世間の人は大そう事を堅苦しく、儀式張らせる傾向がある。先ず第一に橋渡しと云うものがあって、それとなく双方の考をあたって見る。次には「見合い」という事をする。さてその上で双方に不服がなければ改めて媒人を立て、結納を取り交し、五荷とか、七荷とか、十三荷とか、花嫁の荷物を婚家へ運ぶ。それから輿入れ、新婚旅行、里帰り、………と随分面倒な手続きを蹈みますが、そう云うことがどうも私は嫌いでした。結婚するならもっと簡単な、自由な形式でしたいものだと考えていました。

あの時分、若しも私が結婚したいなら候補者は大勢あったでしょう。田舎者ではありますけれども、体格は頑丈だし、品行は方正だし、そう云っては可笑しいが男前も普通であるし、会社の信用もあったのですから、誰でも喜んで世話をしてくれたでしょう。が、実のところ、この「世話をされる」と云う事がイヤなのだから、仕方がありませんでした。たとい如何なる美人があっても、一度や二度の見合いでもって、お互の意気や性質が分る筈はない。「まあ、あれならば」とか、「ちょっときれいだ」とか云うくらいな、ほんの一時の心持で一生の伴侶を定めるなんて、そんな馬鹿なことが出来るものじゃない。