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ちじんのあい
痴人の愛
谷崎 潤一郎
「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页
そして形勢が悪くなると淫りがわしく居ずまいを崩して、襟をはだけたり、足を突き出したり、それでも駄目だと私の膝へ靠れかかって頬ッぺたを撫でたり、口の端を摘まんでぶるぶると振ったり、ありとあらゆる誘惑を試みました。私は実にこの「手」にかかっては弱りました。就中最後の手段―――これはちょっと書く訳に行きませんが、―――をとられると、頭の中が何だかもやもやと曇って来て、急に眼の前が暗くなって、勝負のことなぞ何が何やら分らなくなってしまうのです。
「ずるいよ、ナオミちゃん、そんなことをしちゃ、………」
「ずるかないわよ、これだって一つの手だわよ」
ずーんと気が遠くなって、総べての物が霞んで行くような私の眼には、その声と共に満面に媚びを含んだナオミの顔だけがぼんやり見えます。にやにやした、奇妙な笑いを浮べつつあるその顔だけが………
「ずるいよ、ずるいよ、トランプにそんな手があるもんじゃない、………」
「ふん、ない事があるもんか、女と男と勝負事をすりゃ、いろんなおまじないをするもんだわ。あたし余所で見たことがあるわ。子供の時分に、内で姉さんが男の人とお花をする時、傍で見ていたらいろんなおまじないをやってたわ。