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ちじんのあい

痴人の愛

谷崎 潤一郎

「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页

青空文庫

私とナオミと二人で行けば月々四十円もかかる訳で、いくら相手が西洋人でも馬鹿げているとは思いましたが、ナオミの云うにはダンスと云えば日本の踊りも同じことで、どうせ贅沢なものだからそのくらい取るのは当り前だ。それにそんなに稽古しないでも、器用な人なら一と月ぐらい、不器用な者でも三月もやれば覚えられるから、高いと云っても知れたことだ。

「第一何だわ、そのシュレムスカヤって云う人を助けてやらないじゃ気の毒だわ。昔は伯爵の夫人だったのがそんなに落ちぶれてしまうなんて、ほんとに可哀そうじゃないの。浜田さんに聞いたんだけれど、ダンスは非常に巧くって、ソシアル・ダンスばかりじゃなく、希望者があればステージ・ダンスも教えるんだって。ダンスばかりは芸人のダンスは下品で、駄目だわ、ああ云う人に教わるのが一番いいのよ」

と、まだ見たこともないその夫人に、彼女は頻りと肩を持って、一ぱしダンス通らしいことを云うのでした。

そう云う訳で私とナオミとは、とにかく入会することになり、毎月曜日と金曜日に、ナオミは音楽の稽古を済ませ、私は会社の方が退けると、すぐその足で午後六時までに聖坂の楽器店へ行くことにしました。