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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
憎さげに、歪んだり曲ったり尖ったり――うすい唇では言葉の神経と動顛の精神がたたかっているのであろう。声はひゅうひゅうと隙間風のようにかすれ、またも無意味に濁ったりした。そういう断続の叫喚をつづけて思いきり悪く自分の身をかばいだした。
「どなたも何とも云うて下さいません、よるべない身を、死ねと仰言られるのでしょうか、かあいそうなうちの人、――尾羽うち枯したあわれな姿で帰って来て、ひと言、駄目であった、と、お館さまにご報告申しあげ、辿りついた我が家にうち倒れ、うちの人は、ああ――」
彼女はふらつく声でそれを云った。云うことによって愈々頭に血をのぼらせながら、そして、言葉は一層よろめくのであった。まだ誰も、とめようとも遮ろうともしないのであった。世帯主である彼らは、こういう女の狂態に駭ろきはしなかった。驟雨のようなその昂奮の通りすぎるのを待っていた。だからもう心を留めて聞いているのではなかった。ただ彼女のむらむらした放言に自分の想念を掻きみだされ、ときどきざわめく心の中で、死んだ高倉利吉の苦衷を遠い風景のように眺めていた。
「聞いて下さい、皆さま、去年のその船問屋まで出かけて行って、それももう去年の話――出帆したという船のあとを慕って海辺づたいに、これこれの荷船がもしや漂着はせなんだか、と、漁夫の部落々々をたずね