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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

彼の一言は何かの合図のようであった。それまで焚火を囲んでいた人夫たちが急にごそごそと動きだした。今は人夫に顛落した昨日の案内人は、彼の傍を通るとき、うやうやしく頭を低げていた。

彼らは彼の眼覚めることを待っていたのだ。

人夫の一人は朝の食事をひろげだした。他のものは荷ごしらえにかかった。木の枝に張り渡した菰をはずし、刈り草の上に敷いた筵を巻きはじめた。

朝の挨拶を受けた阿賀妻は、目もとに笑みをたたえて彼のために席をあけた。

「そなたは苦労もなげによう睡っておられた、夢など見てはいなさらなんだか?」

「汗顔の至りで」

「猛獣にも襲われず、まことにゆったりとして一夜を過しました、久しぶりの熟睡でした。さて本日の行程じゃが、この霧では」

彼はきり立った岸べの木々を見あげた。それさえ半分は隠れていた。

「山越えは更に迷うばかりでござろう、今もその相談を致しておりましたが、そこで、こういう風に――」

夜っぴて燃しつづけていた焚火の上に、彼は更に一握りの枯れ枝を投げ入れた。火の粉が舞いあがった。膝をたてていた仲間の顔がぎらりと輝いた。

「大野どのも賛成なされたので――」