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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
何かそぐわない気持であたりを見まわして云った。
「どうした?」
「はあ――」
彼らは左右のものの顔色を、お互いにそれとなく見定めようとした。
「勝手ながら」とふいに阿賀妻は腰を浮した、「食事をしたためたく存じますので」
それは咄嗟に出た思いがけない言葉であった。しかし、云ってしまった彼は重苦しいものから脱けだすことが出来た。実際彼は、風の吹きぬけるような空腹を覚えていたのである。
「さあ、さあ――」と、幾人かの声が、これもほッとしたように彼を送りだした。
外に出た阿賀妻は、目の前に立てこめた暗やみにたじたじした。灯りと人混みから一足はなれただけで、こんなに厚ぼったい闇があろうとは考えてもみなかった。行く手がはばまれているような気がした。――いや、自分は腹をこしらえねばならぬ、と思いなおした。――あの座の雰囲気から脱れて来たのではない。だが彼には、ああなった以上彼らの気持がどの方向に動くかは目に見えていた。喰い止め兼ねる主君は、開拓主事である阿賀妻に援けをもとめるにきまっていた。そのときそこでこの流れを堰きとめる力が彼に在り得たか?――むろん無かった。身をこわすより手はなかった。