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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

「のぞみが無いと申されるのじゃろう?」

そういった阿賀妻の頸すじが怒張した。

逆に問いかけられて大野順平は咽喉をふくらませた。言葉につまって、彼は傍らを見た。その動作を追っかけ、阿賀妻の視線は安倍誠之助の面上に煎りついていた。安倍は次第に昂奮にあからんでとうとう口をきった。

「――待って下さい、絶望だとは誰も云わない、また云えもしない、なぜと云うのに、それは五年十年あとのことでございましょう、成功すると云われれば、そうでしょうと申しあげるよりほか、未来のことは人間にはわからぬのです、しかし、危ぶむことは出来る、それと云うのが、こうすれば、ああすれば――と、導かれ、それをその通り、ただこれ、全幅の信頼をおいてやって来た、その結果が、なにひとつとして仰せの通りに実現せず、実現しないどころか、いよいよ飢餓にさらされたとなれば、のぞみありげな勧説にも一抹の疑いを持ち、不安にかられる心情を無視出来ますまい、阿賀妻さん、身どもせんえつ至極ながら敢えて云いますが、われら今その岐れ路に来ておる、心の紐帯が断たれつつあると思われる、われら先達するものの不明が今に於いて罰せられつつある、あなたは奔命に寧日なく、家中のものの心根に通じてはいない、身どもら、おぼつかなくも鍬をもち、土を掘りおこしているものにはそれがひしひしと伝わっ