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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

この時刻に阿賀妻を訪ねなければならぬと思い立ったことのうちに、――それがこの阿賀妻であったということの故に、すでに一歩を先んじられていた。

誘うように阿賀妻は云った。

「拙者どもに何かご用とおおせられるか?」

「お国のために」と堀は力を入れ、眉をしかめて云うのであった。

阿賀妻は肯きながら、うねる黒びろうどのような河水に目をやった。ときには揺れる波がまざまざ見えるのだ。

ぼやけた対岸には、黒い丘つづきの下にかすかな灯影がちらついて、イシカリの街がそれと見わけられた。

「ほねのある男を一人――」と堀はめんどう臭げにつづけた、「われらに至急ご推挙下さるまいか――」

「ふーん」

「まさに喫緊の用命で、速刻カラフトのクシュンコタンまで行ってもらいたい、またもオロシャの問題だ」

「それをまた――」

「どうして貴殿のところに相談に行くか、――と、阿賀妻さん、あんたはそう云いたいのじゃろう、しかし、考えても見なさい、どこに気骨ある人間がいる? オロシャの赤夷のやつめらにむかって」

堀は何か思いだしたようにげッと唾を吐きとばした。

「身どもらは、イシカリ税庫の建築を請負わしてもらいたいと思いまして、かくは、深夜もいとわず罷りいでました」