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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

そこで、堀の腰かけた場所は、歩いて来た背後の野を見やる位置になっていた。濶く湾入したイシカリの海を、その北方の口にあたって区切るマシケあたりの岬であった。昼ならば、河口を越えて、一直線にあおあおと見わたせる。その大きな岬の根とも思われるところに、はかないような明りが揺れうごいていたのだ。浮き沈みしているのは、船にいるこちらの身体が上下しているためであろう。

「どうやら?――」

堀はその方角を見つめ、大野順平を見あげるようにして呟いた。

「シップの――お汝らの部落ではなかろうか、開墾の火でもあろうか、よくご精の出ることだ、――うらやましいことだ」

――それにひきかえ、自分には心の安まる暇もない――そう云う気持をふくめて、あとの言葉には少からず冷笑のひびきが漂っていた。船の動揺に身をまかせて安らかな寝息を立てている阿賀妻にも気づいていた。当初の意気ごみにも拘らず、何かこの士族らに無作法なものを感じた。途端に焦々して来たのだ。一日中とび廻っていた身体も夜気に吹かれて疲れが出ていた。

その疲労は船にいるものもみんな一様にひしひし感じていた。物を云うのも億劫であった。