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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
どうしても、先ず上座になおって貰わねばならなかった。そして、頭をさげて頼まれれば彼も男であった。「ようがすとも、ようがすとも、あたしが指図してやりましょう」と彼は引き受けた。まったくのところ彼は、武士に頭をさげられたことは生れて初めてであった。そういう時勢になっていたと云うことは、大工の胸にぴったりと感じられていなかった。はてしもないほどに下積におかれたものの心理は、急に彼だけ選ばれて浮びあがったように、認められ見込まれた何かすぐれた自分を感じていい気持になって来た。また、聞けば実際気の毒なことだ、ひと骨おってやらねばなるまい。
「これが身どもらのうちで一番その道にくわしい仁で――」と阿賀妻は傍らに控えている松岡をひきあわした、「名前は長吉、ふん、はなはだ呼びよき名前じゃ、よろしくたのみ申すぞ、いや何ともかたじけない、早朝よりお騒がせして恐縮いたした、ではいずれ後刻、弟子どもをひき連れて改めて入門にまいりましょう」
そう云った阿賀妻は、常の日の痩せた顔にかえっていた。深い眼窩の底でくろい瞳がまばたいていた。
二
シップの聚落から駈りだされた男たちは、今はトビであり土方であり流送人夫であった。