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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
四分鑿が消えたり、二枚鉋の台だけが残っていたりした。置き忘れた陣笠が川口に浮ぶくらいは我慢も出来た。だが、鉋をかけ、明日は使わねばならぬ材料が水に投げこまれたりしていては捨てて措けないのだ。あきらかに妨害であった。誰かが工事の邪魔をしはじめた。
自分らの迂濶さや不馴れさやが、この不便と手ちがいを惹き起すのではない。幾日かの経験で、すっかりそういう結論を得た彼らの眼は、瞋りに燃えたって来た。なるほどと頷く正当な理由もないにかかわらず、それだからなおお互いに傷つけあわねば心が平らにならぬ。憎悪というものは、目に見えないところで火花を散らすものだ。一刀のもとに斬ってくれよう――そういきり立った。が、当の犯人はどこにもいない。けれどもそれはいたるところにいた。一人々々の人間ではなく街ぜんたいが漠然とした敵であった。この街だけでは無いかも知れない。百姓や町人の住んでいる土地自体が、彼らがかもしだす雰囲気そのものが、士族反対の息を吐きだしているのだ。するとそれはどこにでもいる。絶対に多数であった。だから、四民平等の宣言をかかげた新しい政府は百姓や町人の前に屈服しているのだ。