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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
棟梁はいくらか蒼ざめていた。仕事の神聖さに圧されて硬ばるような緊張をおぼえた。彼は木槌をふりあげて棟木をうちおさめた。痺れをきらしていた神主が厳粛な顔をして祝詞をあげた。
川面を吹きぬけて来る湿った風が彼らの半顔をなぶり、白いご幣をひらひらさせた。阿賀妻が先ず榊をささげた。つづいて棟梁、頭――あとは職人どもであった。先ごろから僅かのあいだに、あわただしく、しかし必要にせまられて仕事をたたきこまれたこれら新しい職人が、入れかわりたちかわり榊をささげた。
直ぐと神酒がひらかれた。土器をまわして一わたり冷酒をなめた。
見あげていた群集がほっと溜め息を吐きだした。
「さア餅撒きだ」と誰かが云った。そのときまでには大人もつめかけていた。海岸の漁夫部落からは半分裸の男もおしかけて来た。声高に、わめくように喋りながら、海岸づたいにぞろぞろ集って来た。
群集することは、彼ら一人々々の気持に関係なく何か浮き浮きざわめき立つものであった。亢った上気であった。足を踏んだり手をふったり口を鳴らしたりした。おまけに夏の陽が照りつけていた。暑さの刺激はじっとしていられないのである。