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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
この上と下とは嶮しさの感ぜられぬ対立の中にあった。あッぶあッぶと仰向いている白い顔、黄色いの、茶ッぽいのなど、さまざま重なり合っている顔のうちに、ときどきは見知りあったものの眼にぱッと出あった。眉をしかめたり、口をすぼめたりして、これは合図をせずにはいられない場合であった。家族も来ているのだ。手をひろげている邪気のない子供らには、頑くなな顔も見せられなかった。実際は、こんなあかるい陽の下の、日ごろとは異った位置から見る肉親が、ひどく身近かに、なつかしく感ぜられてならぬのである。わけても彼らの妻女は、見直すように生き生きとしていた。彼らはほほ笑みかけた。祝いの餅を一つでも多く拾わせてやりたいと思うこちらの意志を伝えてやった。
これらの袖の下をかいくぐって、きょろきょろしている高倉祐吉もそういう一人であった。彼も、この光栄ある餅撒きの役目で、是非拾ってもらいたいと思う人がいた。考えただけでも頬が燃えそうであった。むろん口にだしてなぞ云えたものではない。もしもその人の名前を云わねばならぬような破目になったら、彼は目がくらみ呼吸が絶えるであろう。しかし、だからそのひとの近くに撒いてやらねばならぬのだ。