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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

すると彼は、ふりかえるのが怖しいような気がした。空になった祭壇を前にしてぼんやり突っ立っている仲間を、今の彼の立場としては、けろんとして見すごすことも出来ないのだ。――どうしたものでしょう、と、彼は相談をもちかける相手がほしかった。何故かそれは、そのときの彼にとって、もとの家老の阿賀妻でなければならぬと思った。もとの――という言葉を消して、すなわち、もとのあの時代と同じ気持になって、その男がいたならば、彼の見えない内心の風穴に目ばりがして貰えそうなのだ。血肉に浸み透って皮膚のいろまで染っているという彼ら代々の古い感情であったかも知れない。改めて彼は思うのだ。あの男――阿賀妻の朦朧としたような存在がやっぱり自分らの近くに無くてはかなわぬものらしい――と。

彼はふと安倍誠之助のことを考えた。カラフトに出かけた彼は、出かけて行ったそこの荒涼とした風景のなかで、多分こういう風洞を一層ひしひし感じているに違いない。同じ種族は離れてはならないのではないか。

すーッと静かになっていた。とうとう餅は撒きつくしてしまったのだろう。彼は眼を擦って、白い砂っ原、それからひろい野になっている川向うをながめだした。