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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
「すぐ? うん」と、彼は目をあげて空を見まわした。
日は没したが、余映は今を限りと栄えていたのだ。もくりと湧きだした厚い雲はその厚み一ぱいに陽光を受けて焼けただれていた。照りかえしは地の上まで反射して来て、在る物の半面をまっかに染めている。この倉庫の白い柱組みの一本々々も例外なしに染め分けられていた。下で蠢めいている人間たちも、その一瞬は、同じ色どりの濃淡にまびれている。赤いすきとおる光りのなかを、柱やぬきや足場の木材が、つよい黒影をつくる。ちかちかと色をかえながら、人々は行ったり戻ったりしている。
棟梁送りの饗宴を張ろうとしていたのである。簡単な酒肴であったから、待つまでもなくならべられた。
「さア、――」と誰かが彼らの着席を促すのであった。
松岡長吉は取りとめもなくうなずいて、そして気づいたように、わかい高倉祐吉の顔をしばらく見つめた。
「そう――直ぐ行って、ね、やっぱり阿賀妻さんが見えていなくては、と、思いますから、どうぞ、ご用、すみ次第――と」
そう云いながら彼は普請場の宴席に歩みよって行った。彼は棟梁三谷三次の前に――そこだけ空かしてあるところに、どっこいしょと腰をおちつけ、目の前に据えられた徳利に手をかけた。