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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
風が吹き荒れて来た。野に低く雲がおりて目路を蔽った。青い草の海は逆巻くのだ。行く手にふさがる樹林や丘陵は測りがたい悪路を示していた。
「日も傾きはじめた」と云うのは戸田老人であった。真実行く手の困難を案じた年長者が、それとなくあたえる注意であった。
「人夫どもに聞けば、用意の糧食も残り少ないとか」
「それというのも、貴様がよい加減なことを申し、安うけあいをしたためだ」
玉目三郎はそう云った。すると案内人も、ここまで来ればなかなか負けてはいなかった。
「ま、誰にでも、間違いということはありまさア――山は見えたじゃござんせんか」
「そう――山は見えたり、だ」と大野順平は笑った。
阿賀妻は磁石と照して野のはてを見入っていた。
「あの木――あの盛りあがった樹木のなかに一本黒く見える松の木、お判りか?」
その方向に一先ず目標を置いて、この野を横切れと命じていた。
浮き沈みして、草の海を泳ぎ抜こうとする一行であった。
見ず知らずの山野を踏みわけて、夢にも描かぬ土地を探している彼ら自身は、ふっとその姿を、どこか遠いところから見おろしていた。行けども行けども湿っぽい土であった。