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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

十一両三歩也、――」と彼は顔をあげた。夕ばえの明るさが燃え立つような赤さであった。しかし、赭土色に染めだされた彼らの顔の半分は暗い蔭にかくれていた。ほーッと誰かが溜息を吐いた。すると堀はあごをしゃくって云った。

「この莫大な損害を、おぬしら、わが現地の役人はどう解決したと思う?――お思いになりますか、阿賀妻さん」

「さあ?」と彼は目をほそめた。

「その隊長のカルペンコなるものがただ一度頭を低げた――」と、そう云った堀の頬がびくびくとふるえた。云うもはずかしいこのいい加減な解決を、彼の方から先まわりして、嘲笑しようとしたが、うまく笑えなかったのだ。だから、次の言葉はわれながら疳に障ってかッととびだした。

「一ぺん頭を低げただけで済みましたよ――済ませましたよ」

「そうでしたか」と阿賀妻はにやりとした。

「そうでしたよ」

堀はにじりつけるようにそう云って相手を見つめた。切れこんだ細い瞼のうえに、鳶色の瞳をすえていた。相手の胸にぶっつけた自分の言葉がどれだけ効果をあげたか――それを見究めようとする眼差しになっていた。

堀という個人の昂奮は、大主典という職務の立場にかき消された。