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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

そこへ、時の兵部の大丞黒田清隆が、陸軍のなかでもこの人ありと知られたさかんな輿望を担って任を受けた。つまり軍人としては西郷の弟分にあたり、政治家としては大久保とはなはだ接近し、太政官内の受けもめでたいというのであった。従ってこれは各省並みの参議によって統率しなければならぬとする開拓使にあっては、まことに恰好な長官であったと云える。しかもそのとき、オロシャの出先の官吏との間に、毎日のようにごたごたしていたカラフト使庁の堀盛にとっては、さきの日、兵隊としてはじめて洋式調練を授けてくれた人であり、戊辰の役には、その下で、歩兵伍長として率先して指揮に従ったなつかしい関係であった。その上これは、云うまでもなく郷党の先輩であり、師父のような情愛を感ずる彼らの西郷先生の片影を、とおい僻地に於いてこの人を得てその謦咳を感ずることでもある。それほど期待は大きかった。だから、たった一回だけ来て見たその人が放棄すべしと唱えたと聞かされても、それが素直に胸にひびいて来ないのだ。その思いきった言葉の裏には、何か高等な政治的なかけひきが秘められている、――いなければならぬというふうに解釈した。