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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

堀は真正面にそれを見つめていた。それで、卓をへだてた向い合せのその席まで近づく間には、しーんと静まった。やって来たのはこの土地の請負師であった。うす絽の羽織をひっかけていた。じろじろと見つめられると麻裏草履の音もしのばせるような遠慮を示した。陽焼けした大きな顔に浮べた愛そ笑いが横から見ると嘲笑いに見える。

「なんだ?」

「実はさきほどサッポロから立ち戻りまして」

木椅子をひきよせて、そのうちの重だった一人がそう云って腰をおろした。

「サッポロがどうした?」

「いや、えらい景気でした、三日見ぬ間の桜かな――と云うが、だんな、変りました」

「あたり前だ、それがどうした?」

「そうぽんぽん、すげなく云わないで下さいよ、堀のだんな、実は、ね」

彼らはそこで、なぜか揃って阿賀妻の方を見た。尤も、ながくは見てはいなかった。視線をひるがえして含み笑いをして、そして云った。

「だんなはこちらとご昵懇らしいので、実はあちらでお話のすむのを待っていたのですが、しかし、こいつは今度は、是非ともやつがれどもに落札して貰いたいと思いまして、ね」

「なんだ、何の話だ?」

「どうも話しづらい、どうも、その、――こちらのお武家がそばに居られるんでね」