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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
もんだ、なア、半ぱものの長、長吉!」
どんと胸をたたいてぬッと肩をそびやかした。血のけのない顔に静脈を隆起させて、ぴくんぴくんと蠢めかせる恰好は、それはそれとして一種の凄みを見せていた。が、誰もおどろこうとはしないのである。みんな興ざめた顔になった。酒乱のものが現われたと見て取って腰をうかしはじめた。
「そいつは不可ねえ」と誰かが云った。トビの連中の一人であった。きれいに仕切りをつけろと云うのである。
浮腰たった人々を大きな声で呼びとめて、彼は松岡長吉にめくばせした。
「みなさん――」と、彼は云った、「手をしめますからお願いいたします、お手を拝借いたします」
シャン、シャン、シャンと手拍手が鳴りわたった。
「野郎ッ――だれの許しで」
棟梁はそうどなって、手許にあった五郎八茶碗を投げつけた。松岡長吉は首をすくめた。柱にあたってがちゃンと砕けた瀬戸ものを流し目に見ながら彼はしずかな声で云った――云うことが出来た。無頼な職人の恫喝が、その声を聞くたびに彼の気持を落ちつけていた。それを云いながら彼には、なすべきことがひとりでに目の前に描かれて来るのだ。
「みなさん、ご苦労さんでした、お引き取り願ってどうぞゆるりとお休みを」