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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
そう云えば、人々の話しごえを意味のない風の音のようにざわざわと聞いていた。
松岡長吉は腫れた瞼をおしあけた。あたりを見ようとして目のたまを少し動かした。天井のない屋根裏に白い陽の光が斜めに流れこんでいた。しばらく棲んだ自分の小屋でありながら、下からしみじみ見あげる自然木の垂木や小枝の木舞いはひどく馴染みのないものであった。炉火の煙がそのあたりに揺らめいて、隙間を洩れる陽の光を青く幾すじかの不規則な縞にして見せていた。
今日も天気は晴れているのだ。
「門田どの」と彼は云った。繃帯にうずもれたもぐもぐという声であった。
それでも直ぐにわかって貰えた。
「うん、うん」
骨ばった顔を彼の上に持って来て、こちらの眼の瞳の孔に見入って話しかけた。
「ご家老さまも――」と、その『も』に力を入れて彼は云った、「見えられとるんだ」
そのほかおおぜい見えているという意味であった。松岡のこの遭難も気になったが、それと同じほどに、いや、それよりもっと切実に、八分目ほど出来たあの工事をどう始末するかが、口には出さないがそれぞれに問題と感じていた。そのことに関する限り、一切を松岡長吉に委ねていた。