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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
そこだけぽこぽこと乾いた土を見たものだ。鳥肌立つまで濡れしょびれていた身体は、恵みの温気によみがえった。その土地の肥膏さに力づけられ、そういうときにあたって、降りつづく雨から庇ってくれたこのオンコ樹は、天の加護でもあろうかと思われた。人間の往来するあちらでは数年来のさんざんな労苦があったが、枝をひろげたオンコ松のからかさは、その根もとに太古からの落葉や小枝を積みかさね、ふわりとする自然の褥で迎えてくれた。腰をおとして一服喫いつけたときに、既にもう、踏査に来た阿賀妻らの心には、この土地だけという決意が出来ていたのであろう。思えばようやく、彼ら家中の気持もこの心がまえに近よっていた。この方向に通路をきり開こうというのは、一つにかたまったあの日の――故郷を捨てた日の意志を新たにしたものでなければならない。
削った白い標木に、矢立ての墨をたっぷり含ませて、筆も折れよと書いたのである。
「旧仙台藩伊達邦夷貸付地」
月日は記さなかった。当時それはまだ官有地であった。しかし、それから幾ばくも経たないで、予定の通り彼らの手にはいった。今回そこまでこの路が通じたならば、まッ先に書きこむべきは日附けであろう。