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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

冷たい空気が眼にしみた。

うす黒い切株のようなものが動いて来ておだやかな声で挨拶した。

「お早うございます、ようやく明けてまいりました」

従僕であった。彼のうしろには相田清祐がいた。頭髪がほの白く、そこだけいち早く朝の光りを受けていた。

「トウベツの連中は待ち兼ねておりましょうぞ、今日が待ちこがれた開通式でござる故、無理もないことじゃが、おかげで空も秋晴れのすがすがしさ――おめでたいことでございます」

「おめでたいことでございます」

おうむ返しにそう云って阿賀妻はそこの切株に腰をおろしてしまった。東の空に向って彼は刻々に明けて行く原野をぼんやり眺めていた。明るみかけると、まことに時の勢いは抑えるすべもない。うす紫の原野には高低があらわれ、樹林が見わけられて来た。人間の営みは、二百年、三百年の仕来りといえども時が来れば余りに脆くくずれるものであった。商埠地のオダル港に出て彼は廃藩のうわさを聞いた。イシカリ役所に立ちよって、見知りの役人にわざわざそれを確かめた。そして、その噂は決定的な事実となった。それにしても、彼はシップに辿りつくまではまだ半信半疑であった。