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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

そして向う側には、みずから提言して、「開拓の主旨に沿わん」と云った武家たちの意気だけが煙のように漂っていたにすぎない。とつおいつしたあげくに、漸くこれはと思う土地が見つかったところだ。

「主事!」と邦夷は呼びとめた。

めずらしく激しい声であった。捉えどころのない侮辱が彼の脳裡に翳った。それはまた反射的に阿賀妻の胸を打った。

彼は路傍に身をさけて立ちどまった。

邦夷はせかせかと云った。

「早速に郷里のものどもを連れてまいろう、部落をうち樹てねば、うち樹てねば」

「左様でございます、そのためにも――」と阿賀妻は足を早めた。

道には朽ち葉が落ちた。ぴンと立った大葉子の穂が草鞋に蹴られて小さな実を散らした。

林がとぎれて、かッとあたりが明るくなってそして、サッポロが現われた。これはもうりっぱに街になっていた。白い家が列をなして建ち並んでいたのだ。古い掘割りは浚えられ、新しい川になっていた。透明な水をたっぷり湛えて、高い秋の空をまッ蒼に、底なしの深さに映していた。その堀ばたにはよもぎがぼうぼうとしげって灰色の花をつけ、間に挾まった野菊が、よく見ると、うす紫の花を蓬のかげで咲かしている。