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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
誰かがそれを取りに戻って来なければならないのであった。人の嗅いも感じられない荒野の中に、手軽く求められないことも解りきっていた。木の芽草の実のある季節でもないのだ。
「おたずね申すが――」と、ふいに大野順平が云った、「トウベツとやらは、まことに人跡未踏でござろうか」
「だんだん検べたところによれば、そう考えたが間違いないと思うが――何か?」
「この裏にどうやら踏みわけ路のようなものが見受けられたが」
「それは?――」と、眉のあいだに立皺をよせて、阿賀妻は猫背の案内人を見やった。
彼はふくみ笑いを浮べて云った。
「鹿の路ででもございましょうよ」
「鹿が通るか?」と大野が向きなおった。
「それは奴めの勝手ですがな、通るには通りますな」
「ふん――」と彼は唇を舐めて暗い闇をふりかえった。
食われるように出て来るわけでもなかった。
雨は絶えまなしに降っていた。焚火のなかでは、トド松の節がぱちぱちとはじけていた。
玉目三郎は、これ以上その沈黙に堪えられなかった。むろん戸田老人の出るべき場合ではなかった。ひしひしと、一番年若な自分が、それを云わなければならぬ場合と思ったのである。