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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
小間使は足を踏ンまえている家老のはるか手前に指をつかえた。用向きを聞こうとした。
「お呼びでございましたでしょうか」
「うーん、呼んだ」
神山外記は着附けをしたその女の高島田を上からじろじろ眺めて目鼻をしかめた。それがこの日の饗宴のためであるとは知りながら、喜びをむき出しにしたような奥向きの様子が見て取れて、彼は何かしら不満であった。
「結いおったな」と彼は云った。それはつやつやしい髪のことであった。
「――じゃからおぬしどもの耳は留守になっとる、まア宜い、ご前さま、お目ざめか」
「はい」
「外記ら、お目通りをお願いいたしておりまする、と、さようお伺いしてまいれ」
「はい」
「いそいで、じゃ」と彼は追い立てた。
城地を喪ったあの日から、この建物ひとつに、奥と表が一しょになっていた。
戻って来た小間使は、閾の前で眼をあげて、「あの――」と、ちらちらする人々の頭ごしに神山外記の顔を求めた。彼がそれに目をとめると、一座の顔も一斉にこちらを向いた。
「ただいま――」と、彼女は、変に静かなひろい空間に低いこえで云った、「阿賀妻さまお目通りでございまして、済み次第こちらにおでましになられるとのことでございます、その前にちょっと神山さまに――」