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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
雨水を集めて両岸の草の根まで幅をひろげ、はるかなとどろきを立てていた。間違いもなく、これが探しもとめた彼らのトウベツ川であった。上目づかいに見わたす上流の平原は、ひしめき叢る樹木つづきの緑の海であった。天をかぎる巨木が青葉の波濤をつくり――それが五月の雨にけぶっていた。
水はその隙間にこぼれ、低みをえらんで寄り集った。年々歳々のはてもない月日が、土を穿ち岩をかみくだいてこの川筋を掘り下げたのであろう。地底の砂礫も抉られている。白くむき出しになった深い木の根や、浅いところには笹の根やイラ草の地下茎などもとびだしていた。
撫でさするようにあたりの地形を眺めまわしていた彼らの眼は、期せずして向う岸のそういう懸崖に吸いついた。地の底を割ってみせたのである。一尋もあるかと思われる黒い壌土の層が、水気をふくんだうるみ顔をこちらに向けている。
むッとする土の香が匂ったようであった。
おお、これがわれらの土。虚脱されたような幾秒かが過ぎた。へたへたとくず折れそうになった。彼らの身体に、そのときあつい血が湧きあがって来た。撥じかれたようにとび出したのは阿賀妻であった。