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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
「おい、こら――」と彼は守衛がかりの男をいきなり呼びつけて云った、きいきい軋むような声であった、「わからんか、俥を呼べえ――禄ぬすッとめが、走らんか――」
そして鼻ひげを捻りあげてじろッと阿賀妻の顔を見た。短かい顎でこちらを示し、傍らの下役にたずねた。
「それ、何じゃ」
問われた守衛はだまって、間が悪そうにうす笑いした。
「目障りじゃないか――何か用か?」と、太った男はズボンをずりあげた。
「開拓使貫属――」と、そう云いながら、阿賀妻は相手の眼をまッ直ぐに注視して一足前に進んだ。役人は嘲けるように云った。
「なにイ?――」
彼は、白い、指の短かい、円いような手を耳に当ててひらひらさせた。
「開拓使貫属」と阿賀妻は繰りかえした。
「ほほう――おもしろい、開拓使貫属とは、かく云う開拓使権中主典たる鈴木隆助、只今はじめてうけたまわった、見受けたところ、おぬしはアイノの家臣ででもあるのか、大名の居らんところには家臣団も居らんはずじゃが――蝦夷人の大名があったや否やについては一向に存じとらんが、おぬしらどうじゃ? 太政官のお達しにその様なことが見えたかな、とんと存ぜんな、降伏人どもは除族されとる、従ってあそこには貫属があろうわけはないぞ、はッはッは――自体そなたはどこから見えられた? 気狂いの、謀叛人の、あの丸山作楽の、おぬ