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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
「いやア――」と権中主典はうしろにとび退った。
「阿賀妻さんじゃアないか」と堀は嘆息するように云った、「――無礼のところは拙者に免じてお許し下さい」
「俥――まだですか」と堀の属官が時計を見ながら云った。
彼らは兵部省にまわろうとしていた。先日堀は現職のまま陸軍中佐に任ぜられたのである。もっぱら北方警備のためであり、直接にはロシヤの出先官憲司令官であるデフレラトウイッチ陸軍中佐らに対抗するためであった。ながい間軍務にはなれていた堀は、内心あわてふためいていた。伍長から一躍して大隊長の資格を得たのであるが、その間に軍隊の諸方式はすっかり変っている。戊辰戦争の経験は胆玉のことには役立っても、指揮者としては何にもならない。いそいでその任務を勉強しなければならぬのであった。
「弁舌、さわやかなものですね」
堀は洋服の上にトンビをひっかけながら、横目づかいに鈴木を見て下におりた。
なぜか阿賀妻は一足さがった。目の下の頬肉が上気したため、少年のように赤らんでいた。何を措いても貴殿に会わずばなるまいと思って――と、それを云いそびれてしまった。
堀は眼で会釈して、「紹介しておくが」