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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

やがて、春の北海航路の開ける前にその概数を知ることが出来た。

阿賀妻は甚助を連れて、品川沖から乗りだした。船は朝もやをかきわけて進んだ。潮風を肌にこころよく感じる季節になっていた。そう云えば、青山の官園には桃の花も咲きはじめていたのだ。靄が消えると、ねばっこいような春の海がうす緑にひろがっていた。旧暦二月も下旬になっていた。

陸前荻ノ浜の港には、夜明けとともにはいって行った。板の上をすべるような静かな海であった。

空は晴れていた。

彼は朝から甲板に出て、はしけの来るのを待っていた。ついにそれはやって来た。まッ黒に人を乗せていた。疑うまでもなく、彼の家中のものであった。今回の移住に賛成してやって来た連中であった。

本船と艀の距りは一瞬ごとにちぢめられた。運用士官が高いところで何かどなっていた。水夫どもが駈けまわっていた。機関の音が底の方からとどろいて来た。

はしけに積まれた人間はみんな本船を見あげている。白い顔は花が咲いたように見える。それからうっすらと目鼻が見えて来るのだ。そして、しかしそれぞれの顔が見わけられるほどま近に――目の下に来たと思うと、彼の目先はふいに模糊とした。