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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
女子供の足を考慮してたっぷり時間を取った。四十四人の家臣らは、家族を連れ、家財道具を持って、当日、八幡社の広場に勢ぞろいをすることに決めた。
「――いよいよ、行くのですか」
「行くのだ」
「――ほんとに、出かけるのですか」
「出かけるのだ――明後日――明日」
戸主は自分に云ってきかせるようにそう云った。見つめている家族のものの眼付きに、何か内心おどおどするのだ。こうするのが一番よいのだ、と、彼の一方の耳に誰かが囁き、他の耳には、果してこれよりほかに生きようは無いのだろうか――と、呟くものがあった。だが、殿さまが――と、まン中にいる彼が弱々しく反駁する。すると、まるで谺するように反問するものがある――殿とは何だ?
彼は眼を光らしてあらあらしく家族に命ずる。
「さっさと支度を致せ――この期に及んで何を云うことがある!」
そこへ縁者や知人が別れの言葉を述べるために集まって来た。
「とうとう行かれますか」と彼らは云った。
挨拶を受けて、主人は何の遅疑もなく、答えた。
「行きますとも、この通り世帯をたたんでおります」
「どうぞ、道中気をつけて行って下さい」
「ありがとうございます」